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藤井泰子さんに聞く

     カルメンの魅力

春秋座オペラ初登場となる藤井泰子さん。

現在はイタリアを中心にオペラ歌手として活躍する傍ら

女優としても活動されているそうです。

そんな藤井さんに、ご自身が思うカルメン像、

そして藤井さんご自身の魅力に

プロデューサーの橘市郎がせまりました。

TRE

橘   イタリアには、もう何年ぐらい?

藤井 17年ですね。

橘   じゃあ今は日本語より

       イタリア語の方が

       できるんじゃないですか?

藤井 イタリア語は自然に出てきますね。

       留学当初はどちらの国にいても

       外国人のような気がしていましたが

       今はどちらでも現地人、と

       感じられるようになりました。

橘   イタリアでの生活は

       日本と比べてどうですか?

藤井 かゆい所にすぐ手が届く

       スピード文化の現代の日本世代には

       保守的で時に不条理なイタリアでの生活は

       不便に感じると思います。

       私がイタリアで生活して

       よかったなと思うのは、

       本来の自分を見つけられたことです。

       日本では、こうあるべきだよという

       主流の流れに沿う習慣がかなり強いので

       パブリックな場での言動について

       決まりやタブーが多いですよね。

       もちろんイタリアにも

        礼儀作法・マナーやタブーはありますけれど

       自分独自の見解をはっきりと

       提示せねばならぬ機会によくさらされます。

       私はイタリアの習慣に溶け込むことで

       自分でも分かっていなかった、

       本来の自分の性分を知ることができた。

       それが何よりも一番の収穫でした。

       仕事の面では、オペラは難しく複雑な芸術で、

       作品に取り組むたびに

       猛勉強する必要があります。

       コツコツ勉強することを自然に身につけられた

       日本に生まれてよかったと思います。

 

       ただ勤勉の準備段階を経て

       舞台にのりますと、

       また他の要素が必要になります。

       私に欠けていたその要素が「野性の勘」で

       ヨーロッパ生活が

       私にそれを教えてくれたと思います。

       私がこれまで一番演じてきた役は

       『蝶々夫人』なのですが、この作品は

       舞台に2時間以上出ずっぱりの役。

       日によって色々変わり、

       ハプニングも沢山生じる舞台で、

       演唱中も常に頭を働かせて

       次々と起こる問題を微調整しながら

       演じきるためには「野性の勘」が

       欠かせないのです。

       マニュアルに沿うのではなく、

       自分なりにその場でアレンジする能力は

       とてもイタリアらしい要素だと思います。

橘     藤井さんは

           オペラ歌手として知られていますが、

           実は女優さんとしても

           イタリアでお仕事されていますね。

藤井   ええ、本当に偶然なきっかけで。

           イタリアに渡ったばかりの若い頃は、

           大した経験もないのにスカラ座のような

           大劇場で歌えなければ私は幸せになれない

           などと根拠のない理想を追っていました。

           それが若い人の特徴なのかもしれませんが

           焦ってばかりで

           何も得ることができなかったのです。 

           それが、勉強して自信がついてある程度、

           色々なことが分かりリラックスしてきた頃、

           向こうから色々な話が舞い込んできたんです。

            

           テレビのお仕事もそうで、

           クイズ番組で歌を歌って出題するタレントが

           事情で5日間出演できないので

           代役を探していると話が来たんです。

           それもオーディション開始の30分前に

           その連絡があり、運よく行ける状態で。

           最初は5日間だけの代役出演だったのが

           結局、2年半のレギュラー出演となり、

           その後の女優業につながりました。

橘     そんなに!

藤井   ええ、もう6年も続いている最高視聴率番組で

           生収録の放送が土日も欠かさず毎晩

           かけがえのない経験をいただきました。

橘      オーディションといえば、

             この度とあるオーディションで

             主役を射止めたそうですね。

 

藤井   はい、イタリア1920年代のオペレッタ作品

           (台詞が語られ踊りもある歌劇。

           オペラは台詞も歌で演じられる歌劇)で、

           コスタ作曲の「ナポリの少女」

           原題:SCUGNIZZAといいます。

           同じく貧しい出の仲間達と色々しでかして

           毎日を生きている女の子。

           お金はなくても奔放で明るくて、

           でも正直で、何よりもナポリを

           心から愛して離れられない。

           カルメンとはまた全然違う役柄で、

           今から楽しみです。

橘     その主人公の歳はいくつなんですか。

藤井   15歳から20歳ぐらいのお年頃ですね。

橘     うわあ。

藤井   歌のオーディションで受かったんですが、

           演劇の要素がとても強い作品で、

           イタリア語の台詞を

           ナポリ独特のなまりでしゃべる

           台詞部分がたくさん出てくるんです。 

           ナポリ方言は「ナポリ語」といってもいいぐらい

           独特で、他の地方出身のイタリア人にとっても

           発音が難しく、日本人の私としては

           大挑戦の役なんです。

橘     オペラのようにメロディに乗せて

           レチタティーヴォ(歌いながら話す)で

           話すのではなくて、全くのお芝居と。

藤井   はい、イタリアらしいメロディーラインの曲や

           踊るシーンが幾つもあり、

           ミュージカルに近いですね。

橘      こちらの上演は『カルメン』の後なんですね

藤井   ええ、

           代表作のオペラ『アンドレア・シェニエ』で

           知られるウンベルト・ジョルダーノの故郷

           フォッジャ市にある

           ウンベルト・ジョルダーノ劇場での

           公演が皮切りとなります。

           現地ではもう稽古が始まっているんです。

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