橘 プライべートな話になりますが、
藤井さんにはお子さんがいらして、
長男さんがもう立派に
成人されているんですね。
藤井 はい。あちらは成人になるのが早くて
18歳でもう大人なんです。
息子が成人するまで
無事に育ってくれたことを
とても幸せに誇りに思っています。
他はいろいろ、もう本当にいろいろ、
失敗していまして。。。
まあそれは芸術の肥やしになった、
ということで!(笑)
藤井泰子さんに聞く
カルメンの魅力
春秋座オペラ初登場となる藤井泰子さん。
現在はイタリアを中心にオペラ歌手として活躍する傍ら
女優としても活動されているそうです。
そんな藤井さんに、ご自身が思うカルメン像、
そして藤井さんご自身の魅力に
プロデューサーの橘市郎がせまりました。
CUATRO
橘 藤井さんのお話を伺っていると、
私はオペラ歌手です。
クラシックの声楽家です!
という雰囲気ではなくて自由人というか
自分のやりたいことを
ストレートに実現してくところが、
カルメンの雰囲気とぴったりですね!
藤井さんは、これから、
こんなことをやりたいう夢はありますか。
藤井 実は、夢を聞かれるのが一番苦手です。
橘 ほう。
藤井 今はとにかくこの総合舞台芸術である
オペラにぞっこんです。
なんらかの形でずっと
オペラに関わって行けたら幸せです。
本場のイタリアでもオペラファンが
減ってきているのは悲しいことで、
もっと多くの方にオペラの良さに
触れていただきたい、
そのためにできることは何でもしたいですね。
舞台の後に
「感動した、もっとオペラを観たい」と
言っていただけることが最高の喜びです。
自己満足だけの舞台は意味がないです。
ヨーロッパで本物を見ている人が多い
今の世代にこそ、
より素晴らしい舞台が要求され、
またそれを実現し得る
可能性を持っている人たちも多い
日本だと思います。
本物の良さを伝えたいという
同じ志をもった者たちが
使命感を持って舞台を目指していけば、
日本のオペラ事情は
きっと凄いことになります!
橘 今はイタリアで活躍されていますが、
将来は日本に戻って、
日本の仕事をしたいと思ったりしていますか?
藤井 はい。近年二、三割ぐらいのペースで
日本に戻ってきていますが、
どんどん日本での仕事が増えたら
いいなと思っています。
橘 イタリアの良さを吸収して、
最終的には日本に帰って
日本では教えてもらえないことを
後続に教えてもらいたいなと思います。
藤井 …それが私の夢ですね!
橘 お子さんを育てながら、
世界で輝く仕事をしていらっしゃるのは
若い人にとって憧れの存在ですね。
藤井 いやあ、全く華やかではなかったですよ。
子連れドサ回り(笑)。
ローマの最初の5年間は、
地方公演に参加したり
世界中から集まる観光客相手に
カンツォーネのディナーショーで歌ったりして
生活費を稼いでいました。
学校帰りの息子を連れて現場へ行き
楽屋で宿題をさせながら歌い、
終わると眠ってしまった息子を抱っこして
家に連れて帰るというのが日常でした。
毎日休みなしなので喉は疲れていて
オーディションは受けられないし、
自分の勉強をしようと思ってもできない。
でも、そういうのがあったから
私は時間の貴重さ、
時間の使い方が分かったんです。
子どもやルーティンの仕事ができると
逆に、それだけのんびりぐずぐず
時間を使っていた事がわかる。
貴重な時間で何でも一気にできる能力は
付きました。
橘 私、藤井さんに初めてお目にかかったとき
「あ、この人は絶対にのほほ~んとした
人生を送った人じゃないな。
苦労した人だな」って感じたんです。
私も挫折して、これまで何とかやってきたので
この人はそういう苦労を通ってきている、
と直観したんですね。
でも、その時は困難で大変だけれど、
その経験には無駄がなく、
全部栄養にしている。
そういう人だと感じたんですよね。
藤井 ご理解ありがとうございます!
でもいえいえ、無駄、結構あるんですよ。
無駄したことに後悔はないですけれど。
留学時代から生活のために
色々な仕事をやってきましたが、
最初はオペラの本業から
離れた仕事をしていると
アーティストの活動からそれているみたいで
なんだか無駄なことのように思っていましたし
「オペラ歌手がそんなことをやって」と
言われることもあったんです。
ところが違うことをやっていても、
本業のオペラに戻ると
その時の経験が成長になっている、
とある時気が付いたんです。
稽古に戻ると自分がなんだか違っていて、
一回り大きな余裕を持って
取り組めていたんです。
だから、実力があるのに
まだチャンスのない後輩がアルバイトなどで
「なんでこんな仕事を」としょげていると
「どんどんやりなさいよ」って言うんです。
どんな仕事でも積極的にやったら
何かに活きてくる、の精神で
この不安定な音楽職の生活を
乗り切ってきました。