橘 藤井さんはイタリアで
活躍されておられますから、
日本では知っている方が
少ないと思うので、
ご自身のことをお聞きしようと思って
プロフィールを見てびっくりしたのですが、
ご出身が音楽大学ではなくて
慶応義塾大学なんですね。
藤井 そうなんです。
高校が進学校だったので
周りは普通の大学を受験する人
ばかりだったんですね。
慶応では総合政策学部の
国際政策コース。
当時ではまだ新しい試みの学部で、
湘南藤沢キャンパスに通いました。
音楽の方は、実は模試では
成績の良かった本命の音大入試に
本番で落っこっちゃったという
いきさつもあるんです(笑)。
橘 では元々、歌手志望だったんですか。
藤井 そうですね。
8歳の時に初めてマリア・カラスの歌う
『カルメン』をレコードで聴いたんです。
それにビビビッ!ってきて、
もう、虜になってしまって。
ずっとそればかり聴いていました。
母が車の中でも、
かけてくれていたんです。
橘 確か、お母さまもオペラを。
藤井 国立(くにたち)音楽大学の
声楽出身なんです。
オペラとの出会いは母のおかげです。
橘 声楽家を目指していたのは
子供の頃からで、
基礎的なことはオペラ歌手養成所で
学ばれたんですか?
藤井 声楽を始めたいと思ったのは
高校進学前で、高校の三年間は
当時、大阪音楽大学で教えていらした
テノールの田原祥一郎先生に、
声楽の手ほどきを受けました。
進学後は大学4年生の時に
日本オペラ振興会のオペラ歌手育成部に
受かったのがきっかけで、
2年間通いました。
イタリアオペラを中心に
教える所だったので、
かなり勉強になりました。
育成部を終了後、
オペラの本場イタリアに行きたいという
夢がかないまして。
藤井泰子さんに聞く
カルメンの魅力
春秋座オペラ初登場となる藤井泰子さん。
現在はイタリアを中心にオペラ歌手として活躍する傍ら
女優としても活動されているそうです。
そんな藤井さんに、ご自身が思うカルメン像、
そして藤井さんご自身の魅力に
プロデューサーの橘市郎がせまりました。
DOS
でも、どこの国のオペラでも
いいものは好きですね。
いい音楽をいい歌手が演じると
その国の言葉が分からなくても
伝わってきます。
マリア・カラスがフランス語で歌った
『カルメン』が幼い私の心に響いたのは
レコードを聴いただけで
その場が想像できるような
あの独特の表現力で
歌われていたからなんですね。
イタリアに留学したこともある
フランス人作曲家ビゼーが
スペインを舞台とした
オペラ『カルメン』を作り、
それをこの度、日本人キャストが
日本の誇る「廻り舞台」や「花道」など
歌舞伎特有の装置を持つ劇場で上演する。
原語版で字幕付きでの上演ですが、
国境や人種を越える音楽の力で、
字幕を忘れていただけるぐらい
伝わるものの大きい舞台に
なればいいなと思います。
とくに『カルメン』は
演劇の割合の強い劇場のために
書かれた作品で、
しかも登場人物が、
お姫様や貴族でなくて
一般庶民や下級階層。
まさに大衆エンターテイメントです!
そうそう先日、歌舞伎の『四谷怪談』を
観たのですが、あれもオペラと
そっくりですね。
橘 オペラにはドイツ、フランス、イタリアと
色々ありますけれど、
イタリアオペラが一番、ぐっときますか?
藤井 そうですね、ぐっとくるというのには
やはりイタリア語を勉強したから
というのもあります。
イタリアの生活に馴染まないで
イタリアオペラを演るというのは、
日本の生活に馴染まず、
日本語がしゃべれないのに
歌舞伎を演じるのと同じことだと思うんです。
ですからイタリアに行く前に
イタリア語をかなり勉強したので
割と時間を無駄にせず
生活に溶け込むことができました。