藤井泰子さんに聞く
カルメンの魅力
春秋座オペラ初登場となる藤井泰子さん。
現在はイタリアを中心にオペラ歌手として活躍する傍ら、
女優としても活動されているそうです。
そんな藤井さんに、ご自身が思うカルメン像、
そして藤井さんご自身の魅力に
プロデューサーの橘市郎がせまりました。
UNO
橘 今度、春秋座にてカルメンを
演じていただくわけですが、
カルメンという役はお好きですか?
。
藤井 好きですね。
もともと私がオペラの世界入り込んだのも
レコードで聴いた『カルメン』に
魅了されたのが、きっかけでした。
橘先生にお話しをいただいた時には
自分の原点が長年の旅を経て
戻ってきたような運命を感じました。
日本の歌舞伎劇場でのオペラ公演は
ヨーロッパ生活の長い自分にとっては
特に意味深いです。
歌舞伎の舞台装置を生かした
三浦安浩さんの熱い演出と、
指揮・牧村邦彦さんの熱い音楽で
とにかくドキドキ・ワクワクする舞台に
なると楽しみにしております。
橘 そうですね。
カルメン像は人によって
色々あると思うのですが、
藤井さんはいかがですか?
藤井 カルメンは一言で悪女と表される
傾向にありますが、
私のイメージするカルメンは
多くの人々が共感出来る部分をもった
とても情熱的な女性です。
誰もが近寄ってくるのですから、
動物的な色気に満ちた
可愛い女なのだとも思います。
ただ、国籍をもたない
ジプシーに生まれたということは、
迫害生活手段としての
危険な行為と背中合わせという
状況の中で毎日生きてきた
ということですから、
ある種のずる賢さや真実を見抜く
鋭い目などを持ち合わせた
シビアな女性であることは確かですね。
そこがまた人間的な魅力を
醸し出すのだと思います。
藤井 メリメ原作の小説には描かれていない
「ミカエラ」という清純で可愛い
田舎娘がオペラには登場しますが、
それがよりカルメンという
特別な女性像を浮き出させています。
カルメンのために兵隊の伍長という
真っ当な暮らしを捨てた
ホセと上手くいかなくなり、
スター闘牛士であるエスカミーリョに
心を奪われますが、
これもホセのジェラシー、
ある意味男性社会的な強い
独占欲から逃げたかっただけだと、
私は思うんです。
一般の社会ルールに生きていないので
縛られるのがイヤ。
だから束縛されると大好きだった相手も
急に拒絶するようになってしまう。
その点、私もひとりの女性としての
経験をいかせるかな(笑)と。
橘 公演監督の松山郁雄さんも
言っていましたが、カルメンって
バラの花をくわえながら出て来て
男を誘惑して性格がきつくて
ホセにつっかかったりする、
というイメージがありますが、
そういうワンパターンな演技ではなく、
一人の女性には
色々な面があるというところを
藤井さんを迎えることによって
描かれたらいいなと思っています。
藤井 まさにそれを目指しています。
日本で良妻・悪妻という言葉が
よく使われますが西洋文化のなかでも
女性は、「聖母かあばずれか」
というデュアル的でしかない
表現をなされることが、これまで多かったし
その二面の間にある多彩なニュアンスは
四捨五入されてしまいがちです。
でも女性って秘めた多面性を持っていて
複数の相手を愛した女も、
一つの愛を一途に貫いた女も同様に
「愛」の喜び・悲しみ・怒り・
慈悲などを通して
色々な自分を知ることになる。
良悪が共存できる。
同性の方々に共感していただけるような
そして老若男女の観客が
それぞれ自身の人生と
重ね合わせられるような、
女性のそういうところを
この舞台で出せたら最高ですね。
ご期待に添えるようにがんばります。
橘 そういえば藤井さんは、カルメンは、
とてもかわいらしい女性と
おっしゃていましたが
どんなところが可愛いと思われますか?
藤井 一番可愛いと思うのは、
そわそわしながら
ドン・ホセを待っているところ、
ようやく会えた時に彼だけのために
歌いながら踊りを踊ってあげるところ。
愛したら誠心誠意、命がけになる女。
可愛くないですか?