top of page

『カルメン』の舞台は

南スペインのアンダルシア地方にある

セヴィリアという町が舞台です。

町の衛兵であるドン・ホセは、

実は北スペインの ナヴァラ地方 の出身。

名前に「ドン」と付いていることからも

分かるように貴族の青年です。

お金持ちの貴族なので楽器の演奏もできるし、勉強もできる。

当時、勉強ができる人は

カトリックの勉強もしていたそうで、そういう知識もある。

それがある時、暴力事件を起こしてしまい、

ナヴァラを追放されてしまいます。

 

追放されるぐらいだから、

ちょっと殴ったぐらいじゃなくて

相手を殺してしまったのではないかと

僕は思っているんです。

それで、母親を連れて

セヴィリアから少し離れた村に引っ越してきた。

新しい町でホセは失った貴族のプライドを取り戻すため、

また不幸せにしてしまった母を幸せにするために

衛兵に志願して一兵卒から始め、今、伍長という位にいる。

一つの小さなチームのリーダーになるぐらいまできたわけですね。

ゆくゆくは中尉や大尉になって

母を幸せにするのが務めだと思っている。

​第一場へ戻る

カルメンを

演出するということ

「カルメン」は社会からドロップアウトした

若者たちの熱く、

そして、せつないラヴ・ストーリー

という演出家の三浦安浩さん。

三浦さんの描く『カルメン』とは―。

稽古場にお邪魔して、お話を伺いました。

第二場

孤独な魂の触れ合い

僕は、人間とは何らかの形で

上の方、上の方へと目指していくものだと思います。

例えば会社だったら平から課長になり、部長になりたい。

野球なら二軍より一軍でプレイしたいし3番にもなりたい。

ピッチャーなら控えでいるより自分が投げたいと思うわけです。

ホセは一回、その上へ昇る夢が崩れたわけですね。

ですから、もう一度、スタートを切ろうとしているわけです。

 

そんな風に『カルメン』について色々と調べていくと

ホセはものすごく純粋な男なんですね。

そうやって一からやり直して上を目指しているけれど

自分が生まれ育った北スペインと南では歴史も違うし文化も違う。

日本でいうなら津軽出身の人が鹿児島の、

それも桜島が見えるような土地に来た感じですね。

この話では、そこが重要なんです。

僕が知るかぎり日本でも海外でも、

そこを丁寧に伝えてくれる演出は少ないなと思っています。

そういうことから僕が思うには、

ホセは周りの人からかなりいじめも受けていたり、

受けないまでも回りの人との境界を感じていた。

また、母親を幸せにしないといけないと思っているから、

同僚たちと飲みに行ったり、女性とデートしたり、

年頃の男性だったら興味を起こすようなことを

スッパリと断っているわけです。

 

一方、カルメンはジプシーの女性です。

祖国を持たない流浪の民で両親が誰か、

家族はいるのかは出てきません。

本人もよく知らないのかもしれないし、

居ても大したことは無いのかもしれない。

ジプシーは、そういう色々な所から集まってきた

素性の分からない人たちの集まりなわけです。

 

そして、カルメンの魅力は

人とは違う何かを持っているということ。

例えば、みんなと違う目の色、髪の毛、違う肌の色をしている。

そして美人で歌もダンスも上手。

そうすると、みんなが興味を持ちますよね。

でも、その興味は人としての興味ではなく、

単なる見世物としての、また性的な興味なわけです。

それは彼女自身も分かっているんですね。

それはホセも一緒です。

ホセも兵隊グループの中では、ちょっと異質だし、

心に悲しみを抱えている。

だからカルメンとホセは出会った瞬間に互いの中にある

「孤独な魂」みたいなものを感じ合ったんじゃないかと思うんです。

だからホセは喧嘩をして捕まったカルメンを逃がし、

そのせいで二か月間牢獄に入ることになる。

もう、これは一種のお伽噺ですよね。

でも、『カルメン』とは、

そういう悲しみを抱えた二人が出会う話だと思うんです。

春秋座ならではのオペラの楽しみ

そして、牢獄から出てきたホセに

カルメンは兵隊の生活を捨てて私と一緒になろうよと誘い

それを受けてホセは密輸団に入って

アウトローな生活をすることになるわけです。

ですが、自由にみえたカルメンたちの生活の中にも

ジプシーの掟のようなものがあり、

ピラミッドがあるわけです。

そして、あの男も、この男もカルメンと情を通じている。

そういう現実を目の当たりにしてホセは、

また孤立してしまうんですね。

その孤立の中で見えてきたのは、母親の存在だったんですね。

自分は一体、何をしていたのだろうと思っていたところに

母親が危篤だという知らせを受け、

カルメンの元を離れきます。

ところが最愛の母親が亡くなり、

糸がきれたタコみたいになったホセは、

もう兵隊でもないし、一般社会にも戻れない。

ジプシーの社会からも逃げてきてしまったので、

もう、どこにも行く場所がない。

そこでカルメンともう一度、人生をやりなおせないかと

話し合いに行くわけです。

 

ところが、カルメンはカルタ占いの結果で、

自分はホセに刺されて死ぬということを知っている。

ジプシーにとって、その占いは絶対です。

一方、ホセも希望があるわけではない。

もう、ここしかないという気持ちでやってくる。

意地の張り合いの末、

ホセはカルメンを刺し殺してしまうのです。

 

そういう風に見ていくと

『カルメン』は、ただ単に異国情緒に満ちた、

スペイン文化を紹介する作品ではないんですね。

また、ファム・ファタール(悪女・運命の女)、

魔性の女に出会ってしまったために破滅に至った男の話

と紹介されることがありますが、

それだけじゃないと思うんです。

 

男たちに下卑た上から目線で見られながらも、

自分のプライドと戦って必死に生きているカルメンと

その悲しさみたいなものをどこかで分かっているホセ。

僕にとって、今の時代にこの19世紀の話を上演する意味は、

「純粋な愛とは一体、何だろう」

ということだと思っています。

今度の舞台では、その辺りの動きも

お観せしたいなと思います。

春秋座はどの客席からみても舞台が近いですね。

盆や花道などの仕掛けも有効に使って、

楽しく、面白いなと思って観ていただける作品にしたいなと思います。

 

それから今回、ダンサーの女性の方に、

通常の舞台にはないものをやってもらう予定です。

それは、舞台を見てからのお楽しみに

bottom of page